コーヒーは生豆の状態では楽しむことが出来ません。焙煎をしてはじめて、コーヒーとして飲んで楽しむ状態になります。
焙煎とはカンタンにいえば、生豆を焼くということです。言葉で書けばカンタンなことですが、実際の現場にたてばもちろん言葉でいうほどカンタンなことではありません。技術と経験が必要となってきます。
昔、コーヒーの焙煎技術をマニュアル化できないだろうかと考えたことがあります。技術の部分を伝えやすく、わかりやすいかたちにすることはできないかと考えてのことでした。
しかしわたしはそのことをあきらめました。その理由はコーヒーの焙煎は、矛盾の連続だからです。
たとえばコーヒーの焙煎において、生豆を焙煎釜に投入し仕上げるまでにかかる時間は、できるだけ短くしたいということがあります。焙煎釜の容量にもよりますが、通常一回の焙煎は約20分〜25分の間で仕上げることになります。
これをより短時間で仕上げることで、その銘柄からより濃厚な香りを作りだすことができます。また銘柄のもつ持つ複雑な味わいをより引き出すことも可能となってきます。そこで焙煎を短時間で仕上げるために、焙煎釜の火加減を強くすればよいという考えにまず行き着きます。
たしかに焙煎釜の火加減を強めれば、焙煎にかかる時間は短くなります。ではそうすることですべてが解決するのか?そう単純ではありません。
火加減を強くしたのであれば豆の表面にだけ火が当たっていることになります。つまり表面上は焼き色がつき茶色くなっていますが、豆の中心部まで火が行き届いていない「焼きムラ」が生じた状態に仕上がることになります。
コーヒーの焙煎は、豆の表面から中心部まで均一に火が通っていることが求められます。焙煎の豆に焼きムラがあるということは、味にブレが生じることだからです。焼きムラを生じさせずに豆の表面から中心部まで均一に火を通したいと考えるのであれば、焙煎釜の火加減を落として、じっくり時間をかけて焙煎しなければなりません。
いざコーヒーの焙煎をすると、いつもこうした対立するふたつのことが目の前にたちはだかります。こうした対立するものを対立したまま両立させることが焙煎技術のキモであるといえます。
ふたつの相反することがあるときに、その双方の良さを両立させるためにはどうすればよいのか?その問題を解決させるための鍵は、いうまでもありませんがやはり「技術」です。だから焙煎をしているといつも自分の「技術上の課題」に直面します。
その課題において、こうしたら解決するということがわかっているなら、それは課題ではありません。その課題をどう解決したらよいかはわからないけれど、それを解決しなければ次のレベルにはいけない。コーヒーの焙煎をしていてこの状態にいるときが、実はいちばんわくわくするときでもあります。