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焙煎の中の「繰り返し」

焙煎釜のメンテナンス

焙煎釜は1日コーヒーを焙煎すると、想像以上にススや灰が発生します。くわえてコーヒー豆の内部にある植物性の油脂分が焙煎釜に付着します。焙煎釜のメンテナンスとは、焙煎時に発生したススや焙煎釜に付着した油脂分を取り除く作業のことを指します。これらが取りのぞかれずに焙煎を続けているとコーヒーの味を落とす要因となります。

 

しかしこの焙煎釜のメンテナンスは、手間がかかり、かつ重労働な仕事です。たとえるなら一度走った後の車のエンジンをばらして、新車の状態にするようなものです。それぞれのパーツもかなり重く、焙煎釜からはずす作業はとても力が必要となります。

 

ススをとる作業は全身どろどろに汚れますし、その日こびりついた油脂分を取り除くには鉄ベラで力をこめて、こそぎ落とさなければなりません。

 

重要なことはこれを毎日の「当たり前」として繰り返さなければならないということです。一見すると単なるつらい作業でしかありません。当然ですが初心者は最初この焙煎釜のメンテナンスを、焙煎釜を単にきれいにするための作業としてとらえます。

 

しかしコーヒーの焙煎をしていると、こうした「繰り返し」が自分の焙煎技術を高めるうえで、必要不可欠であるということに気づきます。

豆が発する小さなシグナルに気づく

コーヒー豆はいつも同じ状態ではありません。自然の作り出すものですから当然違いがあります。また冬場と夏場とでは気温の違いから、焙煎釜の火加減も変化させなければなりません。

 

コーヒーの焙煎とは、自分の身体にあるセンサーを動かしてこうしたあらゆる変化に対応する作業であるといえます。同じ農園の銘柄を焙煎しても、何か違う「シグナル」をその銘柄が発します。それはとても小さな「シグナル」です。その「シグナル」を感じとり、それにあわせた動きをすることが、焙煎技術のキモです。

 

身体のセンサーを必要とする以上、それはつねに敏感な状態にキープしておかなれければなりません。しかしだからといって焙煎釜に立っているあいだ、ずっと集中しているような状態ではセンサーとして機能しません。それはアラームが四六時中鳴り続けているセキュリティーシステムと同じです。それでは豆から発せられる小さな「シグナル」を、身体のセンサーは感知できません。

 

焙煎釜に立っているときの身体のセンサーは、ふだんは「ニュートラル」にキープしておく必要があります。ただ単に「ニュートラル」な状態においておけば、異なる「シグナル」を感知できるのかといえば、そんなことはありません。

 

焙煎釜のメンテナンスを毎日繰り返していると、釜のある部分において焙煎時のススがその日すこしだけ多く付いている、また逆に少なくしか付いていないということに気づきます。

 

これは「繰り返し」を重ねているからこそ、日々と異なるわずかな兆候の変化に気づくことができるわけです。そのときだけ全力で集中してさえいれば、小さな「シグナル」に気づくことができるというほど単純な話ではありません。

 

コーヒーの焙煎の技術を話すとき、火の温度や焙煎時間など技術論にかたよりがちです。しかし技術を頭のなかで「知識」として理解しているだけではうまくいきません。それでは身体のセンサーが反応してくれないからです。

 

実はコーヒーの焙煎技術とは、そうした表面上のものではなく、焙煎釜のメンテナンスなどのたくさんの「繰り返し」が積み重さなってはじめて成立するものであるといえます。